なぜ僕は日本選手権10000mをつまらないと思ってしまったか

 

今回は5/19(日)に行われた

「第103回日本陸上競技選手権大会 10000m(男子)」(以下日本選手権10000m)について書いていこうと思います。

https://m.youtube.com/watch?v=o6WRZp9pRYY&t=4s

(男子レース:2時間16分辺りから)

 

今回の大会は田村選手が28分13秒の好記録で優勝、坂東選手が28分20秒の自己ベストでそれに続くなど記録的には決して悪くない大会でした。

(田村選手の記録はここ10回の優勝記録の中でも3番目に良いタイムです。)

 

しかし、誤解を恐れずに言えば僕を含めた大勢の人が今回のレースを"つまらない"と感じてしまったのではないでしょうか。

「記録」という素材は悪くないのに「見せ方」という料理次第でこんなにもエンターテイメントとしての長距離走は捉え方が変わってくるという点で非常に示唆的だったと思います。

 

今回のレースの見せ方は料理で例えると

「そうめん」みたいなものでした。

Youtubeを媒体とした放送で、解説はなし、ラップタイムの表示はなし、カメラはトップを走る外国人選手を映す。

言うなれば調理は最低限茹でるだけ、あとはご自由に楽しんでというスタイル。

調味料として自分の好みに味付けできる「コメント欄」がYoutubeにはありました。

 

その代わり「素材」は最高級。

前述した田村選手や坂東選手はもちろんのこと、

日本人選手がドーハ世界陸上の派遣記録である27分40秒を突破するために揃えられた外国人ペースメーカーの3人はそれぞれ、

コエチ選手(27分31秒/10000m)

ケモイ選手(27分25秒)

ムアゥラ選手(27分45秒)

のベストを持つ世界でも一線級の選手。

 

しかし日本人選手がハイペースについていけなくなり、外国人選手が画面にずっと映るようになった終盤、世界最高級の選手が映ってるのにも関わらずYoutubeのコメント欄には「外国人ばかり映してつまらない」といったコメントが並びました。

 

では仮に、Jリーグヴィッセル神戸の試合でイニエスタポドルスキ、ビジャなどの世界最高峰の選手が活躍し、カメラが彼らばかりを映した時、「日本人選手を映せ!」という野次は飛ぶでしょうか?

 

もちろん、そこにはイニエスタとコエチ選手の知名度の差はあると思いますが、それ以上に長距離走をエンターテイメントとして楽しませることの難しさがあると思います。

 

サッカーはゴールやシュート、パス、ドリブルなど多くの「情報」がプレー中に発生します。

全く無名の選手でも、その選手がスーパープレイを見せればそこにスペクタクルが生まれます。

 

それに比べると長距離走はレースから読み取れる情報がとても少ないです。

タイムがわからないと、素人目には選手がスピードを上げたことさえ判断がつきません。

玄人中の玄人である解説者が、「調子が良いですよ!」と言った選手が失速する光景も良く見られます。

それほど、ランニング自体から情報を読み取ることは難しいです。

 

仮に、箱根駅伝で独走している選手をただテレビ画面に映し続けたらそれはエンターテイメントとして面白いでしょうか?

少なくともそんな番組はお正月の風物詩とはなりえないでしょう。

 

そんな箱根駅伝を一年でも有数のモンスター番組に変貌させるのがパフォーマンス以外の「情報」です。

後続との差、持ちタイム、実績などの競技的な情報はもちろんのこと、視聴者を惹きつけるのは選手のパーソナルな情報です。

チームメイトや家族との関係、性格や趣味などが駅伝を彩り感動を呼びます。

 

今回の日本選手権10000mではレースを彩る「情報」である解説やラップタイムがありませんでした。

それでもレースの序盤は日本人選手が外国人選手に喰らいついていたため、楽しむことが出来ました。

それは、僕たちが日本人選手についてはあらかじめ情報を持っていたのに加え、「日本人が外国人に喰らいつく」という情報が発生していたからです。

 

その証拠に男子の前に行われた女子レースの新谷選手と郵政Wエースの闘いはスリリングなものになりました。

解説やラップタイムがなかったのにも関わらず、エンターテイメントとして女子レースが成立したのは、新谷選手や鈴木選手、鍋島選手の「キャラクター」がそれぞれ突出しており、リアルタイムの情報がなくても視聴者が持っている情報で補完出来たためです。

 

それに対して、外国人選手の争いとなってしまった男子レースの終盤は、大半の人が情報を持っていない選手が解説やラップタイムというリアルタイムの情報もない中で走るという状態になってしまったため、最高級の選手を画面が捉えてるのにも関わらず多くの人が「つまらない」と感じてしまったのだと思います。

 

ここで混同してはいけないのは、今回の日本選手権及び選考会は「競技大会」としては決して失敗していないということです。

陸連はドーハ世陸の出場者確保に向け、最高のペースメーカーや環境を準備しました。

結果として派遣記録突破者は生まれなかったものの、ペースメーカーがいなかったり、観客を呼ぶためスタート時間を早めたりした場合、順位狙いや暑さのためスローペースになった可能性はより高かったと思います。

 

今回、日本選手権10000mがTVの放映権を獲得せずYoutubeでの放送となり、解説もつけなかったことから、陸連はそもそもこの選手権をエンターテイメントとして見せようとしていなかったのかも知れません。

ここにも、スポーツを「競技」として捉えるか「エンターテイメント」として捉えるかの難しさがあるように思えます。

 

その一方で今後の発展のためには、エンターテイメントとの融合は欠かせません。

今回の放送でも、視聴者を楽しませるためにラップタイムを表示したり後続の日本人選手を時折映すなどの少しの配慮は難しくはなかったはずです。

TV局と組まないとここまでエンターテイメント性が落ちてしまう、つまり陸連側にエンターテイメントのノウハウが蓄積されていないことが露呈する形となってしまいました。

とはいえ、TVを通さない自前のオンライン中継は日本ではどのスポーツでも完成しきってない部分だと思うのでこれからどんどん改善されてくるところなのかなと思います。

今回実施されたリアルタイムでコメントが出来るあのような放送形態は視聴者により多くの情報が付加されるという点で長距離走に非常に相性がいいと思いました。

 

今回、改めてハッキリとした「日本人選手と外国人選手との差」みたいなものは、僕よりももっと陸上に詳しい人に語り尽くされているし、何よりその差を埋めようと必死でもがいているのはアスリート自身だと思います。

 

いちファンである僕は、ファンとして発する事のできる意見を今回書いてみました。

皆さんはファンとしてどんな陸上の大会を見たいでしょうか。

良かったら聞かせてください。

 

それではまた次回!